チベット・ファウンデーション
現地派遣担当者
カルマ・ハーディ氏の
ザチュカ活動報告



英国チベット・ファウンデーションが去る6月にガンゼ(甘孜)チベット族自治州に派遣したチベット人スタッフから、詳細な情報が伝えられましたのでご報告します。
チベット・ファウンデーション「チベット支援」計画の現地派遣担当者であるカルマ・ハーディ氏による、今年6月5日から23日まで四川省甘孜チベット族自治州のザチュカを訪問した際のレポートです。

 甘孜(ガンゼ)チベット族自治州は18の県に分かれていますが、今回の災害の被害を最も被ったのはザチュカ(石渠)、デルゲ(徳格)、セルタ(色達)、カンゼ(甘孜)です。このうちザチュカの被害が最も深刻でした。

 
昨年10月半ばから降り続いた雪が、5月末にようやく降り止んだ
雪をかき分けて必死に牧草を探すヤク
カルマ・ハーディ氏に手渡された地元撮影の映像より

 ザチュカについては、1995年の中国政府の公式資料によると、

 ザチュカは23の遊牧民居住地/キャンプや村から構成されており、ザ・トゥ(高地)、ザ・ケ(中間)、ザ・メ(低地)の3つの地区に分かれています。このうち、最も被害が深刻であったのは高地にあるザ・トゥでした。

 以下の情報やデータは英国チベット・ファウンデーションの現地派遣スタッフがザチュカの4つの遊牧民居住地の家畜や食料の状況について収集したものです。できる限りのデータは収集しましたが、このうち、いくつかのデータについては入手困難または不正確なものがあります。


ザチュカ政府代表のツェリン・ゴンポ氏との面会
今回の遊牧民支援活動の説明を行い、寒波の被害状況について聴取した

1. デジョンマ遊牧民居住地

 人口: 634世帯(2,629人)
 家畜: 災害前・・21,253
    災害後・・15,436(1996年5月)
          15,089(1996年6月)

 家畜を100%失った世帯: 103世帯(246人)
 家畜を80%失った世帯: 296世帯(1,583人)
 表面上、家畜の全てを失った世帯は小さな家族(注: 1世帯あたりの人口は2.5人弱)で、おそらく少しは生活を再開するための家畜が残っています。ただ、多くの家族を抱える世帯もひどい被害を受けています。例外なく、全ての世帯が何らかの家畜を失っています。また、この居住地は大きな街から遠く離れており、どこか近辺に行って物乞いやその他の支援を求めることができないという問題を抱えています。

 
デジョンマ遊牧民のテントでの聞き取り調査
各家庭あたり12.5〜13Kgの穀物を配布した

2. バタル遊牧民居住地

 人口: 4,123世帯(17,631人)
 家畜:     災害前   災害後
    ヤク  93,498   32,389
    羊   98,053   39,709
    馬    5,487       3,112
        総数   197,038      75,210

 家畜を100%失った世帯: 783世帯(2,779人)
 家畜を80%失った世帯: 2,010世帯(9,222人)
 遊牧民の生活再建支援のためのヤクや羊が手に入るかどうか、実際に確かめるためにこの居住地を訪問しました。
 6頭のメスヤクと5頭の羊(子羊付きで、ミルクがでます)を12Km離れた村の行商から買いました。メスヤクは1頭800元(約10,500円)でしたが、数ヶ月後には900〜1,000元(約11,700円〜13,000円)あたりに値上がりすることになるとのことでした。(注: 春から夏にかけては家畜が牧草を食べて太るのでその分値上がりするとのこと)また、羊は1頭約300元(約3,900円)でした。
 これらの家畜は災害前には50頭の家畜で生計を立て、妻と2人の幼い子供を養っていたものの、今回の寒波で全ての家畜を失ったチベット人ラン・ゴさん(53歳)に引き渡されました。

 また、バタル遊牧民居住地の各世帯の人に会い、約18,000ジャマ(約9,000Kg。ジャマはチベットの重さの単位で約0.5キログラム)の穀物(主として大麦、米が少々)を手渡しました。各世帯に当面の支援として約25ジャマ(約12.5Kg)の穀物を渡すことができました。


遊牧民のラン・ゴさんにメスのヤク6頭と羊5頭を提供した

3. マン・ゲェ遊牧民居住地

 人口: 725世帯(3,063人)
 家畜:     災害前   災害後
    ヤク  7,722    4,560
    羊   4,580    1,972
    馬     596         114
        総数   12,898       7,077

 家畜を100%失った世帯: 118世帯(472人)
 家畜が1〜2頭しかない世帯: 94世帯(376人)
 食料が尽きた世帯: 359世帯(1,903人)
 この居住地の80世帯が、生き延びるために物乞いに頼っています。これは家族の離散に繋がっています。
 この地区の世帯には穀物を手渡しました。家族のそれぞれに約30ジャマを、特に必要ならこれ以上を手渡しています。


支援の穀物を積んだトラックがマン・ゲェに到着

4. ブムサル遊牧民居住地

 人口: 529世帯(2,299人)
 家畜:     災害前   災害後
    ヤク  15,119   10,686
    羊   16,613   13,660
    馬      910         832
        総数    32,642      26,009
 この地区についてはこれ以上の情報は判明していません。しかし、チベット・ファウンデーションの現地派遣スタッフは35世帯(89人)が家畜や食料やテントまでも含めて完全に全てを失ったと伝えられました。このような人々は新しいテントを作るため、捨てられた衣服を探すべく街のゴミ等を集めています。寒波の被害はこの地区で特に深刻でした。700人もが凍傷にかかり、14人が重傷で1人が亡くなりました。

 
凍傷で足指を失った女性などから遊牧民の被害状況を聴取した

 また、チベット・ファウンデーションの現地派遣スタッフはデルゲ、セルタ、カンゼでは十分な時間が取れませんでしたが、概略のデータを入手できました。


総合的評価

 最も被害が深刻であった地区については、未だその状況の把握が難しく、今回の寒波の被害の情報が完全には判っていません(現地派遣スタッフは中国側から短期ビザしか認められなかったことが特に問題でした)。

 今回の寒波の被害は広範囲に渡っていますが、特に辺鄙なところにあったり、寒波の被害が特に深刻であったり、家畜が特に多く死んだりといった、遊牧民居住地はそれぞれの固有の問題を抱えています。

 また"アブラ(Abra)"の問題もあります。これは地中に済むネズミのような動物で牧草や作物の根を食べてしまいます。これが放牧に対して破滅的な影響を与えている地区もあります。

 今回の、チベット・ファウンデーションスタッフの現地派遣で最も明るい側面は地元政府との協力関係を築いたことでした。これは我々の支援活動への信頼を高めるとともに、地元政府は外国人がチベットを訪問する際に直面するビザ発行の際の繁雑な手続きについて、今では簡略化するよう努力してくれるようになりました。

 最も重要なことは、地元の反応でした。これにより、チベット・ファウンデーションの現地派遣スタッフが穀物や家畜を買い付けることができただけでなく、寒波の被害への支援のための募金を継続することの意義を明確にできました。
 チベット・ファウンデーションとその支援者は、今回の寒波で失われた家畜を遊牧民にできるかぎり取り戻させ、伝統的な遊牧生活を将来に渡って続けられるよう強く望んでい ますが、地元の遊牧民はこのような我々の願いに対して大きな信頼を寄せています。


(訳及び補注;チベット・ファウンデーション会員 浅田 英克